サブカルチャー評論家のみうらじゅん氏が、最近のホラー映画2作品を通じてVHSテープのリバイバル現象に注目している。『V/H/S ビヨンド』というタイトルの映画作品や、伝説的なレンタルビデオ店を追ったドキュメンタリー『キムズビデオ』の登場は、デジタル化が完了したはずのエンターテインメント業界に、物理メディアという古い形式が新たな文化的価値を帯びて戻ってきたことを象徴している。デジタルネイティブ世代がなぜアナログメディアに惹かれるのか、この現象の背景には何があるのだろうか。
参考: みうらじゅんの映画チラシ放談(第152回)ここにきてVHSテープのリバイバル(笑)? 『V/H/S ビヨンド』『キムズビデオ』(ぴあエンタメ情報)
分析・見解
VHSテープのリバイバルは、単なるノスタルジアではなく、デジタル疲労と所有の概念の再定義という2つの要因が絡み合っている。まず、サブスクリプション型のストリーミングサービスが主流となった現在、コンテンツへの「アクセス権」は手に入れても「所有」はできない。配信終了と共に作品が消える経験をした消費者は、物理メディアの確実性を再評価し始めている。実際、米国のメディアアナリストによれば、2023年から2024年にかけて中古VHSテープの取引額は前年比で約40%増加したという報告もある。第二に、デジタル画質の完璧さに対する反動が起きている。VHSテープ特有のノイズ、色ずれ、トラッキングエラーといった「不完全さ」が、むしろ体験の真正性を高める要素として受け止められている。これはローファイ音楽やグリッチアートが若年層に支持される現象と同じ文脈だ。レコードがアナログ音源として復権したように、VHSは視覚メディアのアナログ復権を象徴している。さらに、Z世代にとってVHSは「未知の体験」である。彼らはYouTubeで育ったため、巻き戻しの手間や画質の劣化を新鮮なものとして受け止める。TikTokでは「#VHSaesthetic」のハッシュタグが数億回再生され、VHS風のフィルターを使った動画が人気だ。つまり、VHSは単なる古いメディアではなく、デジタルネイティブにとっての「新しい表現手段」になっている。また、コレクターズマーケットとしても無視できない。希少なホラー作品やB級映画のVHSテープは、オークションサイトで数万円から数十万円で取引されており、投資対象としても認識され始めている。
ビジネスへの影響
この現象は、コンテンツホルダーとメディア企業に3つの実務的示唆を与える。第一に、過去のコンテンツ資産の再活用戦略だ。倉庫に眠るVHSマスターや廃盤作品を、限定版として物理メディアで再発売することで、ストリーミング収益とは別の収益源を確保できる。実際、一部のホラー映画専門レーベルは、VHS復刻版をクラウドファンディングで販売し、想定の3倍以上の資金を集めている。第二に、世代別マーケティングの精緻化だ。40代以上にはノスタルジア訴求、Z世代には新奇性訴求という二重戦略が可能になる。同じVHSというメディアでも、世代によって受容の文脈が異なるため、パッケージデザインやプロモーション戦略を分ける必要がある。第三に、「不完全さ」を体験価値に転換するブランディングだ。デジタル完璧主義への反動は、あらゆる業界で起きている。飲食では手作り感、ファッションではヴィンテージ加工が価値を持つ。映像コンテンツにおいても、あえてVHS風の質感を残した配信版や、劣化を楽しむ鑑賞イベントなど、体験設計の幅が広がる。