VHSリバイバルが示すデジタル時代の「不完全性」への郷愁―映画とビデオテープの再接続

イラストレーターで文化批評家のみうらじゅん氏が、VHSテープをテーマにした映画作品の登場を取り上げた。デジタル全盛の2026年にあって、かつて「過去の遺物」とされたビデオテープが映画の題材として再び脚光を浴びている現象は、単なる懐古趣味を超えた文化的転換点を示唆している。

参考: みうらじゅんの映画チラシ放談(第152回)ここにきてVHSテープのリバイバル(笑)? 『V/H/S ビヨンド』『キムズビデオ』(ぴあエンタメ情報)

分析・見解

デジタル映像の「完璧さ」への反動という本質

VHSリバイバルの本質は、デジタルメディアが追求してきた「完璧性」への反動にある。4K、8K、さらにはAIによる高精細化(アップスケーリング)によって映像は限りなく「現実」に近づいたが、その過程で失われたのは「観る体験」の物語性だった。VHSテープには巻き戻しの手間、映像のずれ(トラッキングのずれ)、経年劣化によるノイズといった「不完全性」が刻まれており、それが視聴という行為に固有の時間の流れと身体的な感覚を与えていた。

ホラー映画の演出とレンタル店での偶然の出会い

『V/H/S ビヨンド』がホラー映画のフォーマットとしてVHS映像を選んだのは、このメディア固有のノイズと不安定さが、デジタル映像では再現できない「何かが潜んでいる」感覚を生み出すからだ。一方『キムズビデオ』が描くのは、ビデオレンタル店という物理的な映画体験の場が持っていたコミュニティ性である。ストリーミングサービスのアルゴリズムは個人の好みを学習するが、ビデオ店の棚は他人の選択と偶然の出会いを可能にした。この「効率化されていない発見」こそが、現在のコンテンツ消費に欠けている要素だ。

「見る」から「所有する」へ、配信されない映像の受け皿に

レコードのリバイバルが音楽業界で定着したように、VHSも「見る」から「所有する」へとコンテンツとの関係性を再定義する媒体として、ニッチながら確実な市場を形成しつつある。デジタルアーカイブから漏れた作品や、権利関係で配信されない映像がVHSでのみ流通する「逆転現象」も起きている。

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ビジネスへの影響

「最高品質」より「体験の質感」を求める消費者

企業がこの動きから学ぶべきは、完璧を目指す製品開発の限界である。Spotifyがあえて低音質のLoFiプレイリストを人気化させ、Instagramがフィルム風フィルターを提供し続けるのは、消費者が求めているのが「最高品質」ではなく「体験の質感」だからだ。特に映像・音楽コンテンツ業界では、4K配信やハイレゾ音源といったスペック競争から一歩引き、メディア体験そのものをデザインする視点が求められる。

「不便だが特別」な限定商品でファンとの結びつきを深める

また、物理メディアの再評価は、所有したいという欲求を刺激する限定商品の戦略に活用できる。デジタル配信と並行して、意図的に「不便だが特別」な体験を設計することで、ファン層を深め、ブランドへの愛着(ブランドロイヤルティ)を高めることが期待できる。

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